モビリティ(移動)が向上すると、人は動かなくなる 〜道路、鉄道、飛行機、車、そして自動運転とは何なのか〜
人間固有の好奇心の中に、移動、が入っている
IT前提経営®
の6大要素の中に「モビリティの向上」というのが、なぜ入っているのかという質問をよく受けます。詳細は私の近著『
「IT前提経営」が組織を変える〜デジタルネイティブと共に働く〜』
(近代科学社Digital)の中で触れていますが、そもそも前にもポストした通りテレサイエンスに関係していて、人間固有の好奇心の中に、移動、が入っているからに他なりません。頭に「テレ」が付くテクノロジーは、テレ・フォン、テレ・スコープにはじまり、すべて、人間の欲望を満たすテクノロジーでした。私が依拠する社会学では、ジョン・アーリが2007年に『モビリティーズ――移動の社会学』を書いていて、そこにエッセンスは詰まっていると思っていますが、古くは、コロンビア大学の故・マイケル・ハウベン博士の「ネチズン」の議論や、公文俊平先生の「智民」の議論と同義です。
ここは繰り返しになるので、前のポストを参考
にしていただければと思います。
移動の欲求はテクノロジーに昇華してきた
「移動」にあまりにも人間が興味があるので、その実現のために欲望はテクノロジーに昇華しました。1900年代初頭のアメリカにおける、馬車から車へのたった10年ちょっとでの大転換した事実は、その写真と共に有名になりましたが、それ以降もゴア副大統領の父である
アルバート・ゴア
による全米ハイウェイ構想(州間の自動車用高速道路)をはじめ、ライト兄弟的な夢としての飛行機ではなく、移動手段としての飛行機や、日本の新幹線、アメリカの自家用セスナ、プライベートジェットやヘリコプターのシェアリングなどなど、とにかく、人は移動に血道を上げてきたのです。
移動がさらに発展すると、移動しなくなる
また、この人の移動という現象は、さらに発展すると、移動しなくなる、のです。これも、私たちは1990年代から議論を重ねてきましたが、どこでも仕事ができるようになり、場所から開放されてくるのは事実なのですが、結果、動かなくてよくなってしまう、という現象が起こるのです。まさにコロナ禍におけるテレワークでその一部を皆さんも体験したかもしれませんが、私みたいな田舎暮らしですと、北アルプスの麓の小さな村から一歩も外に出ず「まったく全ての業務」が完徹できてしまうわけで、もはや、移動の必要がないのです。
つまり、高度な移動を実現する時代は、遂には、移動しなくなる、のです。
インターネットにより、遂には移動しなくて良くなった
これは何かの因果かもしれませんが、全米ハイウェイ構想を成し遂げて、モビリティー(又はモービル)の時代の幕開けを作ったアルバート・ゴア議員の息子で、第**代アメリカ合衆国副大統領の
アルバート・ゴア・ジュニア
は、彼の政治人生の全てを、
NII(National Information Inflastructure)
と
GII(Global Information Inflastructure)
に費やし、結果、米国がインターネットで世界におけるとてつもない地位を獲得し、そして、父親が開拓したモビリティー時代を、さらに高度なモビリティーの時代に押し上げて、遂には、移動しなくてよくなった(オンライン会議やオンライン授業を想像してください)、というのが史実だったりするのです。
それでも人は動き続ける
とはいえ、そうやって脱場所化していけば、余暇の考え方も大きく変わり、家族で10日を超える長期で「働きながら」旅行をするような、日本的な「週末旅行」とは異なる価値観が芽生えるのも事実です。特に欧米にはこの手の事例は沢山あり、超高度モビリティの時代にも人は動き続けるというのが現実なのだと思います。
一方で
映画『WALL・E/ウォーリー』
で描かれた未来の人間は、超高度モビリティ時代にまったく動かなくなり、家族で寝たままで生活しています。食事も自動的に配膳され寝たまま食べるのです。結果、体は肥満体型になり、全ての人間が自分では歩くことはできないのですが、まさか、現実が、さながらその世界に着地することは流石に想像できません。
移動を自動運転でどこまで楽にできるか
さて、そうすると、イーロン・マスク然り、移動をどこまで楽にできるのか、というのが私たち人類の共通の興味となります。自動運転に係る技術も、今年にはホンダ(レジェンド)とメルセデスベンツ(Sクラス)がレベル3を実装した車の発売を予定しており、該当する法律も更新されました。こうなるとシステム作動時の責任は運転手ではなくなります。つまり、システム作動時はスマホを見ることができる「可能性」があるのです。
自動運転は、モビリティーの向上に資する「大衆的な」技術の一丁目一番地
私も、スノーリゾートをぐるぐる回る仕事において、レベル2を実装した車を使っていますが、お使い頂いた方は体験的にご理解頂けると思いますが、とにかく片道400キロを優に超える長距離移動はこの上なく楽になり、長時間運転による腰痛や頭痛や眠気などの身体的苦痛から開放してくれます。中年になってよりその恩恵に預かっています。したがって、IT前提経営®の視点に立つと、先進運転支援システム(ADAS: Advanced Driver-Assistance Systems)の発展というのは、モビリティーの向上に資する「大衆的な」技術の一丁目一番地なのです。
人は「より動き」、「より動かなくなる」
このように、劇的な技術の進化により、モビリティーが高度に向上すると、人々はある側面から見ると「より動き」、同時にある側面から見ると「より動かなくなる」のです。何だか狐につままれたような話になってしまいましたが、この相反するビヘビアを併せ持つのは人そのもので、その人が、皆様の会社や学校、社会を組織しています。こうした新しい特性をもった「人」に対して、どんなサービスを展開するのか、どんなインフラやイベントを用意するのか、それが問われるのが、まさに、今年以降のビジネスなのです。したがってIT前提経営®の6大要素の中には、働き方に関する「ノマドワーク」の他に独立して「モビリティの向上」という切り口が内包されているのです。そのベースとなっているのは、人の欲望が昇華した「移動」を助けるテクノロジーそのものであるということを理解することがとても重要なのです。
IT経営前提®6大要素
ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹
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高柳の著書はこちらよりご参照ください。
「
IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く
(近代科学社digital)2020
まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017
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