ITグランドデザイン構築の本質は何か
こんにちは、高柳です。
企業や組織のITグランドデザインの構築支援をさせて頂くことが多くなりました。ITグランドデザインと一言で言っても、企業トップの年頭挨拶のスピーチライティングから基幹システムのリプレイスの助言まで、私がサポートさせて頂く範囲はとても広いです。
【単なるメッセージライティングではなく、作業としては膨大】
私が企業や組織のトップの年頭挨拶などに助言をさせて頂く際の最終的な「納品物」としては、スピーチ原稿中のほんの3行から5行程度の文章なのですが、それを生み出すために、トップとのディスカッションや、既存事業のこれまでの歩み、CIOの役割を担う方々との議論、従業員のみなさんへのヒアリングなど、その作業は数ヶ月から半年に及ぶこともありました。しかしながら、場合によっては、当該数行のセンテンスにデジタルやITの文言が盛り込まれないこともあるのです。
【結局は文化】
なぜそうなるかの理由はわかっていて、一言で言えば、企業のDX(分かりやすいように最近の言葉を使います)というのは、その企業の文化そのものの変革だからなのです。私のアカデミアでの専門は「テクノロジーの社会化」で、ここ25年くらいはインターネットの技術の根幹を成すTCP/IPの社会化を扱ってきました。1957年頃にインターネットは産声をあげますが、これが社会実装される過程でもっとも重要な要素は「オープンソースの精神」という文化だったりします。
1970年代のアメリカ西海岸のハッカーたちがインターネットの発展に貢献したという文脈において、彼らがよく参照したバイブルはイヴァン・イリイチでした。ご承知の方も多いと思いますが、イリイチは日本では『脱学校の社会』で有名ですが、彼の「Conviviality(私が推奨する訳語は「共愉」)」という概念が、圧倒的にハッカーたちに評価されたようです。
【アジャイルとウォーターフォール】
昨今、DXの議論で聞かれるようになったアジャイル文化も、イリイチの文脈に援用されます。企業組織が大きくなり、効率的で繰り返し可能なビジネスモデルを構築するにあたり、業務プロセスがウォーターフォール化するのは必然です。また、企業秘密と呼ばれる概念にも象徴されるように、そもそも企業組織が根本的に持っている「独り占めの性格」は、インターネットと相容れないのです。
【「オープンなんちゃら」なるもの】
テクノロジーが起こる際、そのオリジン(起源)とプロセス(過程)が忘却されるという大きな問題については前回のブログ記事の通りですが、そもそもPC(パーソナル・コンピューター)やインターネットは、権力や大資本の「独り占めの性格」にハッカーたちが大反発した結果生まれたムーブメントであることは社会科学の中で実証されています。しかし、今はオリジンとプロセスを忘却して、その結果だけを消費しているため、企業は、例えば「オープンイノベーション」のような概念消費をしてしまい、その実践は上手くいかないのです。DXの不調もこれとまったく同じ構造です。そもそも、企業組織が根っから持つ「独り占めの性格」とインターネット的なデジタルは相容れないのです。
したがって、DXはいくら方法論を検討しても、企業側がその根っから持っている考え方を実践を伴って変えて、これまでのレガシー文化とは異なる新しい文化を、企業文化として再定着させない限り進まないのです。ITを導入すれば万事上手くいくというものではありませんし、つまりそれは、四半期や半年で出来る仕事では無いのです。
【ITグランドデザインの構築の意味】
したがって、要件定義フェーズの手前に位置するITグランドデザイン構築のフェーズというのは、決してITコンサルタント任せにできるものではなく、経営トップとしっかりと議論をして構築するもので、それを主体的にできなければ、その後の要件定義や、開発フェーズ、インテグレーションフェーズはすべて失敗するといっても過言ではないのだと思います。また、そもそもITだから取り組む、という類のものではなく、すでに「IT前提経営®」の時代になっていることを考えると、日頃の経営実務の中で、脈々と議論や検討、チャレンジや失敗を繰り返した総決算としてITグランドデザインの構築を行う必要があるのです。
ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー
株式会社ウェブインパクト 代表取締役
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹
-----
高柳の著書はこちらよりご参照ください。
「IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く(近代科学社digital)2020
まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生」(ハーベスト社)2017
-----