事業会社にとってのプライベート・エクイティ

経営企画部などに所属してM&Aに関わるようになると、遅かれ早かれファンドという言葉を耳にするようになる。M&Aで耳にするファンドは、M&Aを運用手法として用いる投資ファンドであり、プライベート・エクイティ(・ファンド)と呼ばれる。

小職の知る限り、その存在は、1990年前後の米国の映画、ウォール街やプリティウーマンによって、2000年代には日本でもハゲタカというドラマによって、ビジネスマンのみならず世の中に広く知られることとなった。そこでは、かなり品のない粗悪な企業売買の例が好んで取り上げられ、越後屋のような悪役として演出されたため、悪いイメージが一時期定着することとなった。

という昔話はさておき、実際のプライベート・エクイティが日本に登場してからおおむね四半世紀が経とうとしている。過去の映画やドラマで悪役を演じていた面影は一切なく、今や、M&Aマーケットの担い手として極めて重要な存在である。今回は、事業会社でプライベート・エクイティと関わることになるであろう方々の理解のために、事業会社にとっての価値、付き合い方についてまで、簡単に整理してみた。


M&Aマーケットの担い手としてのプライベート・エクイティ(PE)


プライベート・エクイティ(PE)は、主に銀行・保険・年金等の機関投資家から数百億円単位の投資資金を10年程度の運用期間のファンドとして集め、運用期間中に多数の企業をM&Aにより売買し、年平均利回り20%を超えるハイリターンを投資家に還元する、というのがPEの粗い説明である。個別の投資先については、買収(バイアウト)してから経営に深く関与して企業価値を高め、通常3-5年程度でM&AやIPOを通じて売却(EXIT)する。

実は、PEには一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会 という業界団体がある。外資系ファンドも含めて日本で活躍する主要なPEのほとんどが所属しており、その正会員数は47社(2021年11月時点)にのぼる。同協会のウェブサイトに、 PE市場の概観をまとめたページ がある。同ページによれば、日本のPE市場は、案件総額で2020年に92件、約1.3兆円を記録している。これは国内M&A案件総額の約1割超に相当する。2020年は新型コロナの感染拡大による初回の緊急事態宣言で多くのM&A案件が延期したり破談した年であり、2021年以降はもっと活発化している。

同協会は、最近のPE案件の傾向として、①コーポレート・カーブアウト(大企業による事業売却)、②オーナー/創業者による事業承継、③後期ステージのスタートアップ企業へのグロース投資、を挙げている。経済環境によってPEの投資テーマは変遷し、過去にはMBOによる非上場化や破綻企業を買収する企業再生が盛んだった時期もある。

補足的に、PEと似て非なる企業投資ファンドであるベンチャーキャピタル(VC)との違いを挙げると、VCの投資対象はビジネスモデル確立前で上場前のスタートアップ企業に対して少数株主持分を取得するマイノリティ出資であることが基本なのに対して、PEは上場企業も含む事業が確立している企業の支配株主となるマジョリティ買収を行う。そのためファンドあたりの資金規模や、1件あたりの投資金額は一般にVCよりもPEの方が大きい。


事業会社にとってのPEの価値


それではPEは事業会社にどのような価値をもたらし得るであろうか。PEは買手/売手のいずれにもなり得るため、それにより場合分けができる。

まず、事業会社の戦略的買収においては、PEは良質な買収候補企業供給者になる。PEは、買収した投資先に対して企業価値向上のための各種の施策を講じた後にEXITを行う。そのため、大企業によるカーブアウト、非上場オーナー企業の事業承継等を直接譲り受けた場合にたびたび課題になるスタンドアロン化、経営管理体制強化などが相当整えられた状態でEXITされることになる。IPO可能な水準の内部管理体制が整えられていたり、追加買収によって事業規模拡大が行われていたり、昨今ではDX施策が進められていることもある。また、買収検討がスムーズになるように売却プロセスが準備されることが多い。

次に、事業会社が子会社や部門の売却を検討している場合には、PEは信頼できる譲渡候補先になる。対象となる子会社や部門を競合企業に売却した場合には、買収後に人員削減を伴うPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)が実施される懸念もある。PEもいずれEXITを行うが、成長軌道に乗せる施策を取ることで、IPOさせたり、仮に結局競合企業に売却される場合でも、より存在感の強い会社として次の買い手のグループ入りをすることも多い。

一方で、PEは、入札案件で競争相手になると手強い存在にもなり得る。M&Aの取引に慣れており、意思決定スピードは早い。PEは、ファンド資金と借入資金を組み合わせて買収資金を調達し、投資計算の考え方もLBO(レバレッジド・バイアウト)分析という事業会社とは異なるアプローチを行うため、金融市況によっては、事業会社がよく用いるDCF等の投資計算では価格が追いつかなくなることもある。


PEとの付き合い方


PEは投資の実行と回収、投資期間中の企業価値向上を担うため、金融 × コンサル × 事業家という能力を組織的に有する。実際、主なPEの主要メンバーのプロフィールをウェブサイトなどで見てもらうと、PEによってその濃淡は異なるものの金融出身者、コンサル出身者、マネジメント経験者が連なっていることがほとんどである。そして、20名ないし30名といった少数精鋭メンバーで構成されていることが多い。

実際にPEに所属する方々は、そのような経歴と前職でのきちんとした実績を持っていることが通常であり、推し並べて真面目で誠実な付き合いやすい人たちの集まりである。人的ネットワークや情報、ビジネス機会へのアンテナが高い方々がほとんどのため、投資先に関する情報交換や買収機会の相談などは気負うことなく問い合わせ、打診することをお勧めできる。ただし、彼らはM&Aのプロであり、交渉は合理的でタフであるから、ひとたび具体的なM&A案件で対峙したり競争する場合には、十分なチーム体制で臨まれることもお勧めしたい。



ガーディアン・アドバイザーズ株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
佐藤 創

最新記事