M&Aアドバイザーの役割

2015年の当社設立時に、大変お世話になっているお客様からのご紹介で某財務専門誌にコラムを執筆する機会があり、M&Aアドバイザーの役割について書いた。新卒の1999年から一貫してM&Aに関わる間に、多くの企業がM&Aを積極的に活用するようになり、専門家や案件情報が増え、実務の効率化が進んだことを実感していたため、当時のコラムでは、M&Aのアドバイザーが引き続き顧客に貢献できる要素は顧客本位にある、としてまとめた。それから7年が経過したところで、今回あらためて、顧客本位からもう一歩踏み込んで、顧客のよりよい判断とその実行の支援が役割である、とまとめてみた。

 

M&Aの工程と外部専門家


M&Aは成長戦略から事業承継にまで幅広く用いられるが、①何の目的で、②何を、③誰から/誰に、④いくらで、⑤どのように、⑥買うか/売るか、ということを判断し、実行するのが基本要素である。

言えば易しなのだが、実務プロセスに落とすと、日常的な企業活動から離れた専門特殊な世界となる。M&A戦略の検討、候補先の発掘・打診、デューデリジェンス(DD)、取引形態の検討、バリュエーション(企業価値評価)、主要条件交渉、取引実行等。そのため、一定の経験や専門知識がなければ各工程を進めていくのは難しい。取引相手以外にも関係者が多岐にわたることも多く、コーディネーション能力も必要となる。

これらの実務工程をすべて自社で対応することは困難であるから、外部専門家を活用することになる。おおむね全体をカバーするためには、①ファイナンシャル・アドバイザー(FA)、②リーガル・アドバイザー(弁護士)、③会計・税務アドバイザー(会計士・税理士)の3者を起用することが多い。この他、ビジネス、人事、IT、環境等の分野での専門のコンサルタントを起用することもある。

標準的なアドバイザー3者のうち、弁護士は売買契約書の作成、取引形態の検討、法務DDの実施、会計士・税理士は会計・税務DDの実施、取引形態の検討が主な役割である。FAのカバー領域は全体工程の管理を含めた残りのすべてであり、また売買契約書の交渉や取引形態の検討、DDの結果の解釈にも関与する。

FAとは、その語感からは外れるがM&A全般のアドバイザーのことであり、M&Aアドバイザーと呼んだ方がわかりやすい。また、アドバイザーという名称を用いているが、アイデアや企画だけを行うコンサルタントとは異なり、実務作業の支援や代行も行う。

 

M&Aアドバイザーの担い手


日本のM&Aアドバイザー業の出自は大きく3つに分かれる。①ウォール街の投資銀行による日本進出、②国内の銀行・証券会社や監査法人(現Big 4など)による付加価値サービス、③ネットワーク活用型の仲介マッチング業である。

ウォール街はM&Aアドバイザリー業発祥の地であり、欧州の金融機関も人材獲得や買収によってウォール街から業務を習得してきた。

国内の銀行・証券会社や監査法人は、幅広い顧客網からのニーズに応えるべく、資金調達や会計・税務の専門性を発展させ、アドバイザリー業も営むようになった。それも今は昔、リーマン・ショック以降は日本では外資系投資銀行からの人材の逆流が発生し、ウォール街のノウハウとの均質化がかなり進んだ。

仲介マッチング業は、日本独特の不動産仲介業に倣って発達してきた。事業承継ニーズが増加し続ける中、その解決方法としてM&Aの活用を促すことで、大いに貢献してきている。但し、その強みの本質は案件マッチングであり、複雑な案件遂行を支援する機会は多くはないためウォール街のノウハウとの融合や人材の行き来は未だほとんど起こっておらず、M&AアドバイザーといってもFA業とは異なる。

また、①の投資銀行や②の国内証券・会計ファームから独立した④M&Aブティックと呼ばれるアドバイザリー専業者がある。欧米ではかなり前から存在し、日本でも多数存在する。業務内容がFA業であることが、③の仲介会社と異なる。

このように様々な組織がM&Aアドバイザーの担い手となっている。業務ノウハウは年々均質化が進みつつあるが、それぞれの組織の理念・経営方針・業務範囲・人事報酬体系により、業務姿勢は異なる。

 

M&Aアドバイザーの役割


M&Aアドバイザーは、顧客に対して①情報とネットワークと②案件遂行力というリソースを補完する。事業承継であればその実現のために①が極めて重要であるからそこに特化する仲介会社の役割は大きい。戦略的M&Aであれば案件を成立させる難易度が上がるため②の重要性が増し、FA業が果たす役割が大きくなる。

しかしながら、これらの①と②はあくまで機能的な要素であり、顧客がすでにある程度有していることも多い。情報とネットワークでいえば、顧客が事業環境の知見を有しているし、候補先の発掘に際してもアイデアや情報が顧客側にすでにあることも多い。案件遂行力は一定の経験とノウハウが必要になるものの、社内に経験値と人材を有する企業も増えており、案件によっては弁護士や会計士等の専門家の力を借りればFAは不要ということもある。

このような状況下で、外部のアドバイザーがなお貢献できることがあるとすれば、顧客目線で顧客に所属するかのように動き、顧客のM&Aのためにあらゆることを考え、進言していく姿勢が必要であろうというのが、③顧客本位の姿勢の要素である。①②③が合わさることで、顧客の経営理念から事業戦略、資本政策等への理解を深めたうえで、アドバイザーが持つ情報やネットワーク、案件遂行力を顧客リソースと融合させ、すべて顧客のために用いていくことができ、すなわち案件の実現により高い水準で貢献できるだろう。

ここまでが、情報とネットワーク、案件遂行力という機能要素の提供だけではなく、顧客の身に立って動いてこそアドバイザーである、という話である。顧客の身に立って支援するというのはどういうことか、ということにもう一歩踏み込む。

 

よりよい判断とその実行の支援を行うアドバイザー


情報とネットワークがなければM&Aの機会を発見できないし案件化することはできない。一方、いくら機会を発見できたとしても、案件遂行力がなければM&Aの工程を具体的に進めて取引を実行することはできない。では、両方が揃ったらよいM&Aが実現できるかと言えばそう簡単ではない。

目の前のM&A案件をやるべきかどうかは、案件機会を得た時から、最後に売買契約書にサインする時まで難しい判断の連続になる。難しいというのは、十分な判断材料を収集分析することもそうであるし、悪材料を発見してしまった、他の候補企業との競争で当初想定よりも価格が跳ね上がってしまったなどの状況をどう対処するかもそうであるし、揃った判断材料から実際の意思決定をすることもそうである。

冒頭で、M&Aの基本要素は①何の目的で、②何を、③誰から/誰に、④いくらで、⑤どのように、⑥買うか/売るか、ということを判断し、実行するということだと述べたが、これを全て整えるためには大小さまざまな判断と実行の連続を、案件という短期視点から企業戦略という中長期視点までのスケールを視野に入れて進めていく必要がある。

M&Aのアドバイザーというからには、その役割は、顧客の大小難易さまざまな判断と実行の連続の積み重ねを支援し、顧客がよりよい判断に基づきM&Aを実行できることを支援する、ということに結局行き着くだろう。



ガーディアン・アドバイザーズ株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
佐藤 創

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