M&A実務におけるAIチャットボットの可能性

最近、Chat GPTやBARDなどのAIチャットボットの話題がにわかに盛り上がりを見せています。近い将来、連想キーワードで検索を行ってその検索結果を取りまとめるという作業の多くはAIチャットボットに任せられる時代が来そうです。

M&A実務では、様々な段階や局面において、大量の情報の収集と整理を行う必要がありますので、AIチャットボットによる生産性の向上が大いに期待されます。今回は、Chat GPTを使いながら、Notion AIに文章構成のサポートをしてもらい、M&Aの実務における可能性を探っていきます。

 

例1 事業シナジーを得られそうな会社を探索するスピードを上げる可能性


日本経済新聞社を題材にM&A戦略についてのChat GPTへの相談から始めてみます。まず「日本経済新聞社にとって事業シナジーがありそうな事業分野」を聞いてみたところ、次のような回答が1分かからずに得られました。

日本経済新聞社には、以下のような事業分野でシナジーを生み出す可能性があります。

  1. メディア事業:日本経済新聞社は、経済ニュースを中心に報じるメディア企業です。この分野でのシナジーは、他のメディア企業とのコラボレーションや、デジタルメディアの開発・運営、広告収益の最大化などが考えられます。

  2. データビジネス:日本経済新聞社は、企業や政府の経済データを扱うことができるため、データビジネス分野でのシナジーも期待できます。例えば、データ解析に基づくコンサルティングや、データを活用した新しいサービスの開発などが挙げられます。

  3. 教育事業:日本経済新聞社は、ビジネスパーソンや学生向けの教育コンテンツを提供しているため、教育事業分野でのシナジーも期待できます。例えば、企業研修やオンライン教育の提供などが考えられます。

  4. イベント事業:日本経済新聞社は、ビジネス関連のイベントを主催しており、この分野でのシナジーも期待できます。例えば、展示会の運営や、オンラインイベントの開催などが考えられます。

  5. 海外ビジネス:日本経済新聞社は、グローバルに展開する企業や海外ビジネスに関する情報を提供することができます。この分野でのシナジーは、グローバル展開する日本企業のサポートや、海外ビジネス情報の提供などが考えられます。

これらの分野でのシナジーを生み出すことで、日本経済新聞社は、ビジネスの発展や社会の発展に貢献することができるでしょう。

このレベルの情報の整理が自然な日本語で簡単に得られることに正直驚きを隠せない方が多いのではないでしょうか。自社のことであれば当たり前の内容に感じるかも知れませんが、競合企業や親密な取引先などについても瞬時にこういった整理が得られることで、次の思考展開へのスピードは格段に向上します。

次に、さらに進んで「日本経済新聞社と事業シナジーのある研修サービス会社を5社挙げて欲しい」と聞いてみた結果は以下の通りでした。

以下に、日本経済新聞社と事業シナジーのある研修サービス会社を5社挙げます。

  1. 株式会社ディスカヴァー・エグゼクティブ・エデュケーション

  2. 株式会社ビジネスブレークスルー

  3. 株式会社キャリアデザインセンター

  4. 株式会社シンクタンクA&A

  5. 株式会社アテイン

これらの企業は、日本経済新聞社が持つビジネス分野に特化した研修サービスを提供しており、マーケティング、ビジネス戦略、リーダーシップ、グローバルビジネス、コーポレートガバナンスなどの分野での研修プログラムを提供しています。また、日本経済新聞社と提携して、日本経済新聞社が提供するビジネス情報を活用した研修プログラムも提供しています。

実際には詳細を調べていくことや、これよりも広げて考える必要はありそうですが、時間をかけない取っ掛かりの情報としてはかなり及第点ではないでしょうか。これ以上掘り下げようとすると個社に対する検索を行う必要があるため、このあたりで留めておきます。

 

例2 買収事例の収集がしやすくなる可能性


M&Aにおいては過去事例を参考にすることも多いため、「新聞社によるM&Aの事例を5つ挙げて欲しい」と聞いてみたところ、次の内容でした。

以下に、新聞社によるM&Aの事例を5つ挙げます。

  1. ニューズ・コープ(News Corp)によるDow Jones & Company Inc.の買収:2007年、ルパート・マードック氏率いるニューズ・コープが、ウォールストリート・ジャーナルを発行するDow Jones & Company Inc.を買収しました。

  2. ゲートハウス・メディア(GateHouse Media)によるGannettの買収:2019年、ゲートハウス・メディアが、USAトゥデイを発行するGannettを買収しました。

  3. グラフトン・デイリー・テレグラフ社(Grafton Daily Telegraph)によるメトロ・ノース・ジャーナル(Metro North Journal)の買収:2020年、オーストラリアのグラフトン・デイリー・テレグラフ社が、メトロ・ノース・ジャーナルを買収しました。

  4. 日本経済新聞社による日本語教育の教材会社、シー・アイ・エー(CIA)の買収:2021年、日本経済新聞社が、日本語教育の教材会社であるシー・アイ・エーを買収しました。

  5. ラガルデール・アクティフ(Lagardere Active)によるル・パリジャン(Le Parisien)の買収:2015年、フランスのメディア企業であるラガルデール・アクティフが、フランスの新聞であるル・パリジャンを買収しました。

質問を工夫することによって、より知りたい内容に絞り込むことは可能です。なお、上に挙げられたうち、日本経済新聞社によるCIAの買収の事実は確認できませんでした。情報の正確性についてはまだまだ課題です。ちなみにBingでの検索では情報の引用元を辿れるようになっているようです。

初期的な限界が見えてきましたので、このあたりで実験を止めます。

 

M&A実務へのAIチャットボット活用の未来


今回はChat GPTのテスト版に対して回答を求めた結果ですが、M&A情報の収集や整理における生産性を飛躍的に高めるツールになるであろうという期待が高まります。自然言語でまとめてもらえることによって、担当者の思考整理や思考展開に役立つだけでなく、社内外への共有や伝達にも役立つと考えられます。

小職のこれまでのテクノロジーの進歩によるM&Aの業務生産性向上の経験からすると、AIチャットボットの実用化は、メールからSlackへの移行によるコミュニケーション効率の向上、文書やデータをクラウドに集約することによるモビリティの向上、Zoomの普及によるミーティング効率の向上などと同様に生産性向上にもたらす影響は大きいと考えています。

最後に、「Chat GPTによってM&Aの実務はラクになるか?」という質問への回答を掲載しておきます。

Chat GPTなどの自然言語処理技術は、M&Aの実務においても様々な利用が期待されています。例えば、以下のような活用が考えられます。

  1. 情報収集:M&Aにおいては、買収対象企業の情報収集が重要な課題となります。Chat GPTを利用することで、インターネット上の大量の情報から関連する情報を収集することが可能となります。

  2. ドキュメント分析:M&Aにおいては、多数の契約書や法的文書を扱う必要があります。Chat GPTを利用することで、契約書や法的文書の自動分析や要約が可能となります。

  3. デューデリジェンス:M&Aにおいては、買収対象企業のデューデリジェンスが重要な課題となります。Chat GPTを利用することで、買収対象企業の財務データの自動分析や企業評価が可能となります。

ただし、M&Aは重要なビジネスプロセスであり、人間の専門家の判断や経験が必要とされる場面も多々あります。Chat GPTを利用する場合には、その限界や課題も認識し、専門家の判断を補完するために活用することが重要です。


ガーディアン・アドバイザーズ株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
佐藤 創

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