ECの成功事例を振り返り思うこと

こんにちは。高柳です。

私はECの売上向上の専門家ではありませんが、これまで多くの事業会社のECへのチャレンジに助言をしてきました。

古くは2000年からです。最初の案件はとても小さなBtoBの冷凍食品会社におけるBtoC進出のお手伝いでした。まだSNSも無く、デジタルマーケティングという言葉もありませんでした。その時代のECはとても簡単なもので、いわゆるカートを自前で作り、サービスをはじめたばかりのオンライン決済会社と契約して決済もモジュールをインプリメンテーションするというものです。

いわゆる、私がいうところの No Making, Just Using の時代ではなかったため、すべて自前で開発する必要があり、今よりも何十倍も工数がかかりました。またUIやUXといった概念も今ほど大衆化していなかったため、当時、スーパーマーケットECの成功事例として取り沙汰されていたオーストラリア大手スーパーマーケットのWoolworthsのECを参考に、画面遷移などを一生懸命真似たのを覚えています。

その上で、広告予算を確保し、今のように複雑化していないネットの広告枠を買いました。確かYahoo!の純広告だったと思います。このようにスタートした小さなECサイトはYahoo!の広告が開始されると同時にリリースとなりました。

さて、驚いたことに、このECはリリース後すぐに、受注のメールが秒速何通というレベルで飛び込んできました。発送用の段ボールは大量に発注していたため問題ありませんでしたが、予算の関係で発送用の伝票作成が「手作業・手書き」でした。最初は喜んでスタッフとともに受注メールの数を数えていましたが、発送担当者の顔色がだんだん悪くなってきました。そこで、まさか使うとは思っていなかった、数量限定のページに急遽差し替え、事なきを得たのです。その晩は私たちのチームも総出で発送伝票を夜通し書きました。バックオフィスを自動化していればこのチャンスを乗り越えられたと思う一方で、当時はまだ競合も少なく、受注予想がまったくたたなかったということもあり、それ以降、受注が多かった場合、少なかった場合など、プランCくらいまで予算に応じた対応を考えるようになりました。このECサイトはあれから20年以上経過した今も健在で同社の売上を支えています。

次に印象的だった案件は最初の経験から10年が経過した2010年頃のもので、こちらは打って変わってどなたでもご存知の大手小売業のお客様です。アパレル業ということもあり「サイズ」という大きな難題がつきまとう業種でした。

冒頭書いたように私はECの専門家ではなく、同社の経営者に TDMA(Tech Driven Management Advisory:IT前提経営®︎) を提供している立場だったため、ある地方の、ECの売上アップにコミットする専門会社に同社のECの立て直しを依頼し、ベンダーコントロールを行っていました。

この時代になると、私は No Making, Just Using を口を酸っぱくして言っていたため、ECサイトのリニューアルにあたっては、既にあるサービスをそのままいくつも使ってもらい、リニューアルの費用をミニマイズするようコントロールしました。その上でしっかりと各種ビーコンを埋め込み、ABテスト等を繰り返しながら、キャッシュアウトプロセス(ECの顧客が商品を選んでから支払いを済ませるプロセスのこと)のみならず、当該EC全体のUIもTry&Errorで効率化していきました。

同時に、SNS時代に突入していたため、SNSを含めたネット広告も専門会社の方々に最適化してもらい、その上で、マス広告のチームと連携し、テレビをはじめとする媒体と、ネットの連携を仕上げていきました。既に認知度のある会社のECというのは、すぐに数字に出ます。私の方は、経営者にTDMAの中でアジャイルにTry&Errorを繰り返していく意味について説明をさせて頂いていたため、「徐々に」改善していく売上を辛抱強く見守って頂きながら、最初の四半期で仮設定していた予算を達成しました。当然、改善幅は億単位で、同社の2,000億円近い連結売上の中でも成長領域として印象付けることになりました。

最後にご紹介する案件は、現在も私が目下アドバイス中のお客様です。同社にはこの10年くらい助言をさせて頂いてきましたが、現在は No Making, Just Using に従ってECも在庫システムなどもSaaSに移管中です。

このお客様は年間売上が10億円程度の中小企業ですが、商品群はとても有名で、BtoBの展開を経営者3代に渡って行ってきました。インターネットの活用によりBtoCへの進出のみならず、FAXや電話を利用して受発注していたBtoBもEC化してきました。ここはとても重要な観点でBtoBと言えど、先方の担当者は人であり「個人」なのです。従って、その担当者という「個人」は、つまり生活者であり「C(Customer)」であることには疑いもなく、BtoBでもデジタル化はほぼBtoCと同じだと私が言い切る根拠になっています。

そのようにスタートしたBtoCだけではないBtoBのEC化ですが、最初の月から店舗1カ所を超える売上を叩き出し、今ではキャンペーンなどを打つと年間の売上の中でも無視できない重要な数字をつくるまでになりました。

さて、同社がECで成功した理由のひとつには「自分ごと」としてECに取り組んできたからだと感じています。前述した通り、SNSの時代に入り、デジタルマーケティングは複雑さを極めています。 MA(Marketing Automation) のような言葉ができて、人を介さなくてもデジタルマーケティングができるようになってきた反面、それでも商品知識、商品哲学、ペルソナの正しい理解、などについて詳しいのは当該事業会社です。同社は3代続く老舗であることもあり、経営者自らがサイトのデザインから発信する文章や写真までこだわり抜き、同社の既存顧客や潜在顧客に対して、これまでもイベントやすばらしい品質のカタログと共に伝えてきました。オンラインになってもその拘りはまったく変えず、InstagramなどのSNSを中心に、これまで以上に、高い質感で写真、動画、文章などあらゆる手段を用いて伝える努力を日々されてました。まさにこの哲学的な活動に呼応し、BtoBの先方担当者である「C」とBtoCの「C」が、ECという手段を通してさらに購買するようになり、持続的かつ右肩上がりに売上を伸ばしているのです。つまりそれは「自分ごと」として取り組む姿勢が結果に繋がっているのです。

「専門業者(ベンダー)に任せればいい」という「他人ごと」がECだけでなく、ITの様々な失敗を招きます。自社の哲学のもと完成された商品のマーケティングを完全にベンダーに委ねてしまったり、ベンダー任せによってベンダーロックインに陥り身動きがとれなくなってしまったりということが積もり積もると少しずつズレが生じ、デジタルマーケティングを運用する際には大きなズレになっている、そのような状況では成功するものも成功しなくなってしまいます。

デジタルは手段でしかありません。デジタルだから人に任せるのではなく、そもそも、やることはほとんどこれまでと変わらないのですから、「自分ごと」として自分でやることが肝要なのです。

 

ガーディアン・アドバイザーズ株式会社 パートナー
立教大学大学院 特任准教授
高柳寛樹
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高柳の著書はこちらよりご参照ください。
IT前提経営」が組織を変える デジタルネイティブと共に働く (近代科学社digital)2020 まったく新しい働き方の実践:「IT前提経営」による「地方創生 」(ハーベスト社)2017
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